上石津・唯願寺の龍姫伝説
わたしはお坊さんを好きになりました。ひとつになるには故郷と出自を捨てなければなりませんでした。それでもとてもしあわせでした。やがて子を授かりました。一生懸命育てようと思いました。けれど、理由があってその姿を夫に見せることはできません。決してのぞかないで下さいとお願いしました。
でも、ある日、のぞかれてしまいました。
乳をやる為には、なりふりかまわずちからを振り絞らないとできないため、その時だけは鱗にまとわれたほんとうの姿にもどってしまうのです。
わたしは、琵琶湖の龍女です。
いままで隠していてごめんなさい。どうしてもあなたへの愛しさを、とめることができなかったのです。けれど、こうして姿を見られた以上は、もうここにいることはできません。あいする我が子もおいていかなければなりません。琵琶湖につながる井戸をくぐって故郷へ帰る事とします。
ひとつ、お願いが在ります。あの、カヤの木の実をすり潰し、この子に与えて下さい。そうすれば、母乳がなくても丈夫に育ちます。二度とあえなくなっても、授かった我が子が愛の証として健やかに育つことが、わたしの「唯だひとつの願い」です。
さようなら、さようなら。
こぼれた涙が井戸を満たし、月をうつしたその瞬間、おおきな水柱が立ったかと思うと、またたくまに龍女とともに井戸の奥へと吸い込まれてゆきました。
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これは、上石津・時地区にある「唯願寺」の龍姫の井戸とカヤの大木の伝承を元に妄想したお話です。だいたいあってると思います…
その、貴重なカヤの実を頂いたので、砕いて炒って甘味噌にして、お団子つくりました。初・カヤの実は山の香りがしました。